未完成の場で創造を繰り返す

d.schoolの「場」がどのようにデザインされているのかを記した書籍「MAKE SPACE」.

その日本語版が作られた際に監修をしたイトーキの方々が先月スタンフォードに来られ,著者のスコット・ドーリー自らがd.schoolを案内する機会に同行させていただきました.

d.schoolに置かれている家具はd.schoolのスタッフによってデザインされています.Scottの話の中で印象的だったのは,建材として使われるシャワーボードと洋服売り場で使われるハンガーラックを組み合わせて作ったホワイトボード:Z-rackと,合板を天板にしたテーブル:Periodic tableの説明を受けた時でした.

普通のホワイトボードは脚の部分がH型になっていて,幾つも重ねて置いておくことはできません.Z-rackはたくさん重ねて収納できますし,とても頑丈に出来ているので荒っぽく扱っても問題ありません.乱暴に扱って見せるから動画撮ってね!とスコットがデモしてくれました.
d.schoolの教室の中心的な役割を果たすPreodic tableはスペースの躍動感を示す大きな存在です.Periodic tableはハイチェアと合う高さになっていて,並べ方を変えて幾つか直線に並べれば立食パーティもできるし,L型にするとプレゼン会場のようになります.大きなキャスターと正方形の天板は「どんどん移動させて使って」というメッセージを発しています.そして「日常的に使われ,いじられることを想定している」ため,最初に作る時から天板にわざとキズを付けることもあるそうです.

これらは家具メーカーであるイトーキの皆さんには少し驚きだったようでした.メーカーが乱暴に扱って大丈夫だよとメッセージを発したり,最初からキズを付けて製品を出荷するというのは,不良品やクレームをなくそうと日々努力されているサプライヤーには無い発想でしょう.

Designのための環境を自分達でDesignし続けてきたノウハウが詰まった本がmake spaceです.今のd.schoolは引越しを重ねた4つめのスペースですが「User Centered DesignをするためのスペースがUser Centered Designされてきた」ことが非常に重要なことだと思いました.

David Kellyによる序文は「気付いていないかもしれないが,私たちは「どのように働くべきか」について空間が発するメッセージを受け取り,それに従っている.」と始まり,そしてd.schoolのスペースは「あなたもどんどん参加して」とメッセージを発すると述べています.

d.schoolは木造の建物が鉄骨で補強されていますが,その太い木の梁とパイプ剥き出しの高い天井が,こうしたセルフビルドの家具にとてもマッチしています.鉄とガラスで出来たビルには少し似合わないかもしれません.
ドイツのHasso Plattner Institueでd.schoolのスペースをデザインした際の話がワークプレイスやワークスタイルに関するサイトworksight.jpに掲載されています.
「技術を魅力的なソリューションに導く デザイン・シンキングとは」
こちらの一節が非常に印象的です.

空間が未完成だからこそ人は考える
イノベーションの場は、完璧であってはいけない。磨きをかける余地や、提案をする余地がなければいけない。ガレージのように、ある意味、未完成で、「あれをこっちに動かしたい」「これを少しずらしたい」と思うような場であるからこそ、頭が回転するからです。素材も光沢のあるものよりも、磨いていく部分があるもののほうがいい。その場に立って見回すと「やることがいっぱいある」と思わせるような場が理想なのです。その点、完成している場は、「下手にいじってバランスを崩したくない」「汚したくない」と思わせてしまい、そこに立つ人の足をすくませてしまいます。仕事をしていて「ここに何か書いたら怒られるかな……」などと考えてしまうようでは、活動が萎縮してしまいます。

最近何かの時に目にした「失敗できる場所で失敗する」というブログも関係がありそうです.

worksight.jpでもd.schoolが紹介されていますので,ぜひ合わせて読んでみてください.
「デザイン思考を実践できるイノベーターが育つ」

ツアーの最後にはd.schoolのブレインストーミングのスタイル”Yes AND”が書かれたバッグをお土産にもらいました.頭では分かっているつもりでしたが,Scottとのツアーでよりd.schoolへの理解が深まりました.
Many Thanks, Scott!

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