EXPRESSIVE MOVEMENT IN ARCHITECTURE AND DESIGN

7月15-19日にUC Berkeleyで行われたEXPRESSIVE MOVEMENT IN ARCHITECTURE AND DESIGNというワークショップに参加してきました.DESIGN FRONTIERS WORKSHOP SERIESという4週間に渡って開催される4つのワークショップの1つめです(2つめも参加したので,それについては別エントリーで).講師をつとめるWendy JuはStanfordのdesignX Labの同僚でもあります.

Exercise 1: Defining the Space
初日はまずこのワークショップのお題に関連して参加者7人それぞれがオモシロいと思っている関連した事例などをGoogle+のページに書き込んで紹介し,お互いの関心事を共有しました.その後グループに分かれてキャンパスをフィールドワークしました.

Exercise 2: Exploring the Fantastic(Campus of Berkeley)
Wendyから出されたお題: You will be going on an imaginary scouting expedition for places:1)To put a large display, 2)That would make a good improvisational stage for showcasing people’s expressive movements,3)To build in physical movement of otherwise inanimate spaces)を頭の隅に置きながらキャンパスを2人の女性と一緒に歩き,歩きながらディスカッションをして3つのアイデアを出しました.1人ずつ1つのアイデアをプレゼンするよう作業を分担し,2日目の午前中にそのプレゼンしました.最終的にはグループで発表したアイデアとは別のアイデアを各自でプロトタイプしましたが,歩いている時に3人それぞれが一番面白がっていたことがアイデアの元になっていました.

ぶらぶらと歩いている最中に,自分の中にある興味と自分の外にある何かと組み合わさってアイデアが出ることが多々あります.街に出て人々を観察をしたり初めての場所へ出かけることは,そうした化学反応のような組み合わせを生み出すための良い方法です.デザイン思考で観察に出かけたりやアイデアキャンプで街に出かけることは,最初は何かみつかるかなぁ…と不安だったりするものですが,何かしら発想のきっかけを与えてくれるものです.

Exercise 3: Wizard of Oz
2日目の午後にはdesignX LabのDavidがビデオプロトタイピングの紹介をしてくれました.新しいHuman Computer Interactionをデザインする時にWizard of Oz(オズの魔法使い)と呼ばれる方法を使うことがあります.
これはコンピュータを使ったシステムを作る時に人がどういう反応するか?を探る時に,コンピュータが行う(べき/だろう)処理を人間が代わりに処理をしてテストをする方法です.ビデオプロトタイピングはWizard of Ozを使ってシステムを動かした様子をビデオを使って撮影し,それに対して人々からの反応を調べる方法です.
ProcessingやArduinoを使ったプロトタイピングの手法もさっと紹介されましたが,参加者のプログラミングスキルの幅が大きい場合には,モノ+(魔法使いのように)それらを操作する糸や棒とビデオを組み合わせる方法も紹介しておくのは,ワークショップの進め方として良い方法だと思います.

その後は各自が自分のアイデアをプロトタイプしていきました.キャンパス内のゴミ箱にいろいろな形のものがあること,ゴミ箱が集まっている様子が鳥の群れのように見えたこと,が自分の関心を惹きました.Wendyのお題の2)と3)を組み合わせて,ゴミ箱ロボットを群れとして動かし,それらとキャンパス内の人々がインタラクションする様子をプロトタイプしました.

ちょうどこの数カ月,自分が開発しているプロトタイピングツールCityCompilerの中に実機のAPIと同じAPIで動く仮想のARDroneやArduinoベースの車輪ロボットを作っていたので,CityCompilerを使って群ロボットのシミュレーションをしました.
CityCompilerの良いところして,ネット上で公開されているProcessingのさまざまなサンプルとSketchUpで作られ3Dギャラリーで公開されている3Dモデルをそのまま使えることです.プログラミングしたのは実質的には3日ぐらいでしたが,動きのパターンやゴミ箱の形を何通りかスタディすることが出来ました.その過程はこちらのスライドで.

ゴミ箱ロボットの形状を幾つか検討している内に,角柱もしくは円柱であれば良いのだと思い,円柱形のディスプレイにProcessingを表示するMobility Deviceとしてロボットを作りました.これはWendyが設定したExcersice2の2)と3)の要素に加えて1)も統合してみよう,と思ったのです.
Workshopをデザインする時には参加者の発想の取っ掛かりとなるような制約を設けます.主催側もWorkshopの流れやそうした制約を色々と考えているものなので,あえてその流れにきちんと乗っかってみることで,自分の思考のバイアス:偏りから逃れることができます.それはサッカーで例えると,自分1人でドリブルで切り込むのではなく,味方とパスを交換し続けながらゴールに迫るようなものかもしれません.

最終日の午後2時からミニパーティー形式で参加者全員が作ったプロトタイプの発表を行いました.実物+糸+Arduinoでのデモ,模型+遠近法をうまく使って敷地で動かしているように見せたビデオ,など,さまざまな進め方のプロトタイピングがありました.
自分が進めたシミュレーションとしてのプロトタイピングは,スピードが早く複数のバリエーションの比較も簡単にできるメリットがある一方で,他の人からは今何を進めているのかが見えづらくある程度出来上がった時でないとアイデアを足してもらったりコメントをもらいにくいというデメリットがあります.
他の参加者と同じ部屋でプロトタイピングをしていましたが,他の参加者に助けを求めることで新しいアイデアを引き出した人もいたりして,最後の発表会でもそうした違いを感じました.

参加者どうしのインタラクションを含めプロトタイピングの場をどうデザインするか?
ワークショップの主催者ではなく参加者としてするのは久しぶりでしたが,そうした問題を改めて考える良い機会になりました.

Many thanks to Wendy and all guys in the workshop!

未完成の場で創造を繰り返す

d.schoolの「場」がどのようにデザインされているのかを記した書籍「MAKE SPACE」.

その日本語版が作られた際に監修をしたイトーキの方々が先月スタンフォードに来られ,著者のスコット・ドーリー自らがd.schoolを案内する機会に同行させていただきました.

d.schoolに置かれている家具はd.schoolのスタッフによってデザインされています.Scottの話の中で印象的だったのは,建材として使われるシャワーボードと洋服売り場で使われるハンガーラックを組み合わせて作ったホワイトボード:Z-rackと,合板を天板にしたテーブル:Periodic tableの説明を受けた時でした.

普通のホワイトボードは脚の部分がH型になっていて,幾つも重ねて置いておくことはできません.Z-rackはたくさん重ねて収納できますし,とても頑丈に出来ているので荒っぽく扱っても問題ありません.乱暴に扱って見せるから動画撮ってね!とスコットがデモしてくれました.
d.schoolの教室の中心的な役割を果たすPreodic tableはスペースの躍動感を示す大きな存在です.Periodic tableはハイチェアと合う高さになっていて,並べ方を変えて幾つか直線に並べれば立食パーティもできるし,L型にするとプレゼン会場のようになります.大きなキャスターと正方形の天板は「どんどん移動させて使って」というメッセージを発しています.そして「日常的に使われ,いじられることを想定している」ため,最初に作る時から天板にわざとキズを付けることもあるそうです.

これらは家具メーカーであるイトーキの皆さんには少し驚きだったようでした.メーカーが乱暴に扱って大丈夫だよとメッセージを発したり,最初からキズを付けて製品を出荷するというのは,不良品やクレームをなくそうと日々努力されているサプライヤーには無い発想でしょう.

Designのための環境を自分達でDesignし続けてきたノウハウが詰まった本がmake spaceです.今のd.schoolは引越しを重ねた4つめのスペースですが「User Centered DesignをするためのスペースがUser Centered Designされてきた」ことが非常に重要なことだと思いました.

David Kellyによる序文は「気付いていないかもしれないが,私たちは「どのように働くべきか」について空間が発するメッセージを受け取り,それに従っている.」と始まり,そしてd.schoolのスペースは「あなたもどんどん参加して」とメッセージを発すると述べています.

d.schoolは木造の建物が鉄骨で補強されていますが,その太い木の梁とパイプ剥き出しの高い天井が,こうしたセルフビルドの家具にとてもマッチしています.鉄とガラスで出来たビルには少し似合わないかもしれません.
ドイツのHasso Plattner Institueでd.schoolのスペースをデザインした際の話がワークプレイスやワークスタイルに関するサイトworksight.jpに掲載されています.
「技術を魅力的なソリューションに導く デザイン・シンキングとは」
こちらの一節が非常に印象的です.

空間が未完成だからこそ人は考える
イノベーションの場は、完璧であってはいけない。磨きをかける余地や、提案をする余地がなければいけない。ガレージのように、ある意味、未完成で、「あれをこっちに動かしたい」「これを少しずらしたい」と思うような場であるからこそ、頭が回転するからです。素材も光沢のあるものよりも、磨いていく部分があるもののほうがいい。その場に立って見回すと「やることがいっぱいある」と思わせるような場が理想なのです。その点、完成している場は、「下手にいじってバランスを崩したくない」「汚したくない」と思わせてしまい、そこに立つ人の足をすくませてしまいます。仕事をしていて「ここに何か書いたら怒られるかな……」などと考えてしまうようでは、活動が萎縮してしまいます。

最近何かの時に目にした「失敗できる場所で失敗する」というブログも関係がありそうです.

worksight.jpでもd.schoolが紹介されていますので,ぜひ合わせて読んでみてください.
「デザイン思考を実践できるイノベーターが育つ」

ツアーの最後にはd.schoolのブレインストーミングのスタイル”Yes AND”が書かれたバッグをお土産にもらいました.頭では分かっているつもりでしたが,Scottとのツアーでよりd.schoolへの理解が深まりました.
Many Thanks, Scott!

創造的思考過程のモデル化

Stanford d.schoolにおいてはデザイン思考は5つのステップ:EMPHATHIZE(共感),DEFINE(問題定義),IDEATE(創造),PROTOTYPE(プロトタイプ),TEST(テスト)として説明されています.それぞれのステップの詳細とプロセス全体を進めるにあたっての心構えについてはDesign Thinking – Bootcampのサイトが分かりやすいでしょう.

人気を博しているデザインシンキングですが,この5つのプロセスを順番に進めるだけでイノベーションが生まれるのか?という疑問が湧くのは自然なことでしょう.

先日d.schoolで教鞭を取るティナ・シーリグとミーティングをする機会がありましたが,彼女はこのモデルとは少し違うかたちで創造のプロセスを捉えているようでした.

d.schoolを運営する資金を提供しているHasso Plattnerが描くデザインシンキングのダイアグラムではステップが6つあり,また相互のステップが行き来していて少し複雑です.

創造の過程を説明するモデルには大きく分けると
 a)ステップ間の行き来が描かれない直線的なモデル
 b)ステップ間の行き来が描かれた反復的なモデル
があります.
前者としては,ジェームズ・ヤングによる書籍「アイデアのつくり方」や,建築家・藤村龍至さんによる意識的に直線的な設計を行う「超線形設計プロセス」(「ジャンプしない」「枝分かれしない」「後戻りしない」という三つの原則に基づく)があります.

物理現象をモデル化:式として表現する方法にニュートン力学と量子力学がありますが,それらは対象とする物理現象のスケールによって使い分けられます.創造の過程のモデルの関係はどう説明できるのでしょうか?

直線的なモデルと反復的なモデルの関係を図として表現した研究に 平石徳己, 創造的思考プロセスの幾何学的モデル化, 日本創造学会論文誌, Vol 2, pp.50-61, 1998.があります.Webではこの図が見つからなかったので,この図を知った弓野憲一「世界の創造性教育」ナカニシヤ出版のp.17の図1.1 創造的思考プロセスの幾何学的モデル(平石1988)を模写しました.

この図のパスM-Nは難易度が低かったりきちんと正解があるwell-defined problemであったりとスムースに問題解決ができるケースを示しています.
問題の難易度が上がり,問題の定義が曖昧だったり矛盾を含んだり解が複数存在するようなill-defined problemになるにつれて,パスP-A-B-C-D-E-Qという創造的なアウトプットに至る「典型的な創造的思考プロセス」が必要になります(この図ではそれとしてワラスの四段階説:準備期+あたため期+ひらめき期+検証期がとりあげられています).
しかし実際には,一連のステップが1回ずつだけ行われるとは限らず,一番最初に戻ってしまうパスE-F-G-H-Aもあれば,新しいアイデアを考えなおすE-F-G-Cというパスもありえます.

モデル化された思考プロセスは,あくまでも説明しやすいようにモデル化=理想化/単純化したものです.この図を知っていれば,直線的なモデルと反復的なモデルの関係を把握しやすくなると思います.

デザインシンキングや創造的思考プロセスに関心を持つ人が増えるにつれて,さまざまな思考プロセスのモデル化がこれからも行われていくことでしょう.異なるモデルを比較してみると,提案者のモデル化の意図や伝えたい事がどこにあるか?を知ることができるでしょう.

創造思考の過程をモデル化する=単純化する動機には,
 1)創造性教育における基本の「型」として活用+体で覚えるまで練習を繰り返す
 2)複数の人々がチームプレーをするための「共通言語」として活用する
 3)早く/上手に/失敗なくアイデアを生み出す「方法論」として活用する
など幾つかあります.
「デザイン思考」への違和感を感じている人も増えつつあるのではないかと思いますが,それは3)としてデザイン思考を捉える人が増えているかもしれません.個人的には,dschoolでは1)と2)にフォーカスが置かれているように思います.

またそうした違いを図示できるとオモシロいのではないか,とふと思いました.

50 years in the Making

先週の6月14日にStanford Product Design Programの50周年を祝う会が行われました(ちなみに学部向けのカリキュラムはこちら).
ゲストや先生方の講演だけでなく,(卒業生の子供達も楽しめるような)風船作りや小さなセイルボート作りのワークショップも行われ,和気あいあいとしたムードのイベントでした.

Bernie RothとStanford Professor for 50 yearsによる”The Designer in Society”というワークショップには,このStanford Design Programを立ち上げた一人であるBob McKim先生のお姿がありました.自著のアイデアキャンプの参考文献に”Thinking Visually: A Strategy Manual for Problem Solving”をあげさせてもらっていることをお伝えして,一冊お渡しすることができました.

Jim Adamsによる”50 years of Creativity”では,50-YEARS CHANGES AFFECTING CREATIVITYとして創造性に影響を及した要因の歴史も概観しつつ,BLOCKS TO CREATIVITY and CHANGES (BOX)について語っていました.今月のあたまに行われたDesign EXPEでDavid Kellyが「オレ達はずっと同じことやってるんだけど社会がその重要さに気付いたんだ」といったようなことをかつて学生だった京都工芸繊維大学の櫛先生に話していたとのこと.
50年同じプログラムを続けてきた人達の強さを感じます.名物授業であるME101:Visual Thinkingは創設以来ずっと続いている授業であり,ホームページでもその事が誇らしげに記されています.

今はデザイン思考がブームのようになっていますが,そのブームが去った後でもきっと同じことを続けていくのでしょう.最後のシンポジウムHistory and Future of the Product Design Programは都合が付かず聞くことができなかったのですが,そんな話が出ていたのではないかと推測しています.

Teamwork for Radical Collaboration at d.school

ME101: Visual Thinkingでも「Design is Team Sports!!」と言われていた話を先のエントリーで紹介しました。

工業製品をたくさん作って世の中に売り出すためには、デザイナだけでなくエンジニア、マーケター、製造現場、販売現場等多くの知識を集結させる必要があるため、チームワークを身に付けることプロダクトデザイナはにとって重要です。

しかしながら、専門性の持ち方と働き方の違いからか(アメリカでの働き方は主にポジション性で、何かしらの専門知識を持つスペシャリストがチームを組んで仕事をします)、日本人が思うチームワークとアメリカ人が思うチームワークには違いがあるように思います。

そうした違いに言及している本にスタンフォードでコンサルティングプロフェッサーをされている福田収一先生
デザイン工学
があります。以下に一部を引用します。

—– 戦術的チームワーキングと戦略的チームワーキング p.45
 日本のチームワークは、既に決まったメンバーが、いかに目標を効率的に達成するかを問題にする。すなわち、いかに御神輿を上手に担ぐかを問題とする戦術的なチームワークである。目標が決まった後に、それをいかに上手に実現するかに主眼をおいている。
 アメリカのチームワークは日本とまったく異なる。何をすればよいかの目標を決定するためにチームを編成する。戦略目標が決定されれば、後の戦術的な展開は個々のメンバーにまかされる。どのような方法で、目標を実現するかは、個々のメンバーの考え方次第である。
 戦略目標の適切な決定には、異なる専門知識、経験の組み合わせだけではなく、異なった見方、感じ方の組み合わせが必要になる。同じ専門知識でも、個性により捉え方は異なる。専門知識、経験だけではなく、個性という要素も考えることにより、できるだけ多様性を確保し、それにより戦略目標設定をより適切に行う。それが、Stanfordが提唱するチームワーキングである。
—–

日本とアメリカの違いさらにはMITとStanfordでのチームワークの違いについて福田先生が言及されている発表資料もネットで見ることができました。

d.schoolは、こうした異なる専門知識を持つ学生達がチームを組んで正解のない問題にアタックすることで自分の知識を横に伸ばす機会を提供し、I型人間をT型人間に進化させるミッシングリンクだとCDRのLarry Leiferが言っていました。
特定の専門知識を持つI型人間を幅広い知識やスキルを持つT型人間に進化させることはとても難しいことです。それは万国共通なようで、その進化の方法に言及されている書籍に
アイデア・ハンター―ひらめきや才能に頼らない発想力の鍛え方
原題 The Idea Hunter: How to Find the Best Ideas and Make them Happen
があります。以下に一部を引用します。

—–I型人間とT型人間 p.101
専門特化した世界の外に踏み出す方法は二つあり、いずれも方向性は似ている。一つはもちろん、多少なりともゼネラリストになることだ。(略)二つめも同じくらい有効な方法で、自分の専門分野をしっかり守りつつ、分野外の人たちとのパイプを太くするように努力することだ。(略)いずれの方法をとるにせよ、あなたの視野は広がり、ほかの人にはない情報源からアイデアが得られるようになる。こうしたT型の人間になっていくのだ。必要なのは、これまでとまったく違う、なじみのな知識や習慣のあふれる世界へ、つまり”安全地帯”の外へ飛び出す意欲だけだ。わくわくするようなアイデアはそこにある。
—–

d.schoolがどこの専門分野にも属さない場所としてこのダイアグラムに描かれているのは「安全地帯の外」であることを示しているのだと思います。1人だけ安全地帯の中にいるのでは戦略的チームたりえませんから、アタックする問題の設定としては誰からも距離の遠い問題を選ぶ必要がありましょう。

未知の世界で何をすべきかを決定するための戦略的チームワーキング。そのために必要なMind Setsを身に付けた人材を育成する場所がd.schoolだと言えます。戦術的チームワーキングに慣れてしまっている場合は、ワークショップをやってみたり家具を揃えたりするだけでなく、まずはチームワークの違いにも注意を向ける必要がありそうです。
そうした違いの参考になる書籍として

も参考になると思います。

Filling in the H in CHI at CS547

CS547 HUMAN-COMPUTER INTERACTION SEMINARは毎週金曜日にゲイツビルで行われているセミナー形式の授業です。WebにもOpen to the publicと書いてある通り、誰でも聴講することができ、講演はきちんと録画されYoutubeで公開されています(公開は学期が終ってから行われるようです)。

コンピュータと人とのインタフェースにまつわる要素技術からアプリケーション、認知科学や社会科学の話まで、スタンフォード内外からゲストが招かれて講演を行っています。

今期は6月でリタイヤするTerry Winogradの講演「Filling in the H in CHI」もありました。


まずはWinogradの話を聞きにきたお友達のみなさん(と言ってもエドワード・ファイゲンバウムとかですが…)と「これ知ってるよね!?」と掛け合いをしながら、CHIの歴史をざっと振り返り、その歴史は「What is a Human?」の歴史であるというお話をされました。
A human is …
 a physical body : Human Factors
 a language understander : (AI)
 a information processor : Psychology
 a worker in an organization : Management, Business
 a social being : Sociology, Anthropology
 a resource of meaning :
CHIの歴史を捉えるこの視点は眼から鱗でした。

SHRDLUという自然言語を処理する人工知能の研究で一躍名を馳せたWinogrardは一転して「コンピュータと認知を理解する―人工知能の限界と新しい設計理念」書き上げ、そしてソフトウェアの世界に”デザイン”をもっと取入れるべきだと考え、ソフトウェア・デザインに関る様々な分野の人達のエッセイやインタビューをまとめた「ソフトウェアの達人たち―認知科学からのアプローチ」(その意図は原題”Bringing Design to Software (ACM Press)“の方が伝わると思います)を出版しました。
そしてラリー・ペイジがGoogleを生み出すきっかけとなったプロジェクトであるStanford Digital Libraries ProjectやThe Stanford Interactive Workspaces Projectを率いました。CHIの研究を通じて新たに見えて来た人間のさまざまな側面を研究してみるとまた新たな側面が見えて来てまた研究する、というサイクルの流れを歴史と共に俯瞰することができました。

そして最後のa resource of meaningが、いまd.schoolでやられているような観察(Observation)と共感(Empathy)から始まるデザインプロセス、Human Centerded Designと合流するのだという話がありました。ソフトウェア・デザインやHuman Centered DesignとT型人材を育成するプログラムであるd.school(Winogrardはd.schoolの発起人の1人でもあります)の関係は僕自身もこれまでうまく説明できなかったのですが、この話でその関係をうまく説明ができそうです。
講演の後で持参していた「コンピュータと認知を理解する」にサインをしてもらったのですが、今日の話でHCIとd.schoolの関係が良く分かりました!と伝えたら、そうだろうそうだろうと何度も頷きながらサインをしてもらえました。

Human Computer Interaction:HCIの研究分野はComputer-Human Interaction:CHIと言うときもあり、この分野で最大規模の国際会議もACM CHIです。この分野ではHumanへの関心とComputerへの関心のバランスが研究者によって違いがあると思いますが、サブタイトルでその順番「SEMINAR ON PEOPLE, COMPUTERS, AND DESIGN」となっていること、講演のタイトルが「Filling in the H in CHI」とあることからもWinogrardは「Human」への関心が実は高いのだなぁと思いました。

ComputerというVehicleにのってHumanにまつわるJourneyを続ける。そんな研究者に僕自身もなりたいと改めて思いました。

Design EXPE@Stanford, Design Fest@UC Berkley

先のエントリーでも紹介したStanfordのDesign EXPEは機械工学科のいくつかの授業の発表会の日を同じにして学生達の成果物をいっぺんに見てもらおうという主旨のイベントです。ME310およびSUGARの他に

  • ME113: Mechanical Engineering Design
  • ME185: Electric Vehicle Design
  • ME218: Smart Product Design
  • ME236: Tales to Design Cars By
  • ME298: Silversmithing and Design

の発表が行われていました。

ME113の発表は横のビルで行われていたのと、ME185の学生達は人がたくさんいる場所に自分達の電気自転車/カート/バギーで乗り付けて来てくれていたので、成果物について学生さん達にいろいろと話を聞くことができました。
ME113でも他の授業と同じようにPrototypingとTestを繰返して設計を進めていくというスタイルが徹底されていました。ME185では成果物をつくるための予算がグループ毎に割り当てられているそうで、自分達で考えて色々と部品を買ってきていいんだとか。ME101でも同じような仕組みになっているのですが、授業に予算があるというのはとても良いことですね。

同じ主旨を持ったイベントとしてが5月にUC Berkeleyでも行われていました:UC Berkeley’s Design Fest 2013。Berkeleyでは学科をまたいだイベントになっていて、アート、コンピュータサイエンス、機械、都市工学、エンジニアリングリーダーシップなどの学科の授業の発表会が同時に行われていました。

イベントの取りまとめをしている1人Wendy JuさんはCal Design Labのprogram coordinatorを務めていますが、Stanford Center for Design Researchのdirectorでもあります。WendyがStanfordでやっていたEXPEが楽しくてそのアイデアをBerkeleyでも始めたのかな??と思って聞いてみたら、その通りでした(笑)

Wendyが所属するCal Design Labの役割が“The goal of the lab is to be a nexus for interdisciplinary activity and to facilitate discourse that will help Berkeley to forge a strong identity around its multi-faceted strengths in design.”であるからだとも思いますが、複数の学科や学部にデザイン系のコースが散らばっている大学では、こうしたイベントを通じて学生同士がデザインのクオリティのレベルを比較できるようになることはとても良いことだと思います。

2012-2013 ME310: Design Innovation

スタンフォード機械工学科の名物授業のひとつであるME310は、今お世話になっているCenter for Design ResearchのLarry Leifer先生が中心となって行っているProject Basedの授業です。スポンサーの企業からのお題に対してスタンフォードの大学院生と他国の大学院生とでチームを組んで9ヶ月間取り組む「Real Companies. Real Projects. Real Design.」が特徴となっています。

9ヶ月間に渡るプロジェクトのために(スタンフォードでは珍しいと思いますが)部屋がひとつ提供されていて、たまに覗いてみると必ず学生の誰かがモノづくりを行っていました。企業の担当者へのプレゼンやミーティングも定期的に行われ、企業×(Stanford+大学(アメリカ以外))という距離と文化を超えたコラボレーションが進められていました。

他の授業の発表会を同じ日に行う「Design EXPE」のイベントの目玉としてME310の発表会が行われました(ME310の発表会にたくさんお客さんが来るので他の授業の発表も一緒に見てもらうようになったようです)。晴れ舞台であるDesign EXPEには多くのお客さんが訪れ、プレゼンとデモを楽しんでいました。

まだプロトタイプのものだけでなく、すぐにサービスインできそうなものや製品にできそうなものもありました。

  • UNICEF*(Stanford+Aalto University):医療体制が整っていないアフリカの地域。多くの母親は病気になった子供を抱いて遠路はるばるやってこなくてはならない。医師が地域コミュニティに出向いて治療をするための一式をバックパックとしてデザイン。
  • EDEKA*(Stanford+Hasso Plattner Institute):独身の人に向けのネットスーパーサービス。買いたい食材を選ぶのではなく、iPadから作りたいメニューを選ぶ。必要な食材と調味料が1人分パッケージされ、バス停に設置してある冷蔵庫に置かれる。PIN番号が書かれたメールがユーザに届き、最寄りのバス停でピックアップできる。
  • Clariant*(Stanford+University of St. Gallen):筐体を作ると同時に電子回路も一緒にプリントアウトする3Dプリンタ(抵抗やコンデンサなどは途中で挿入)。壊れにくく丈夫な製品を作りやすくするだけでなく、必要な部品や素材や人材のマッチングサービスによるスタートアップ企業支援のサービスの一環として提案。Webも制作

この他にもStanfordの学生とはチームを組まず他国の大学院どうしでチームを組んで企業からの課題に取り組んだ成果もSUGARとして発表されました。
参加していた京都工芸繊維大学の学生さん達や櫛先生にもお話をうかがうことができました。海外の大学および企業とコミュニケーションを取ってデザインを進めることはとても大変+とても良い経験になったそうです。私が講師をしていたせんだいスクールオブデザインでも海外の大学と一緒に設計課題を進めるプロジェクトがありますが、そうした取り組みはプロダクトデザインやインタラクションデザインの分野ではあまり聞いたことがありません。さらに企業と連携としているのですから、教員側の苦労も推して知るべしです。素晴らしい人材育成プログラムだと思います。

2012-2013 ME120: History and Philosophy of Design

ME120の授業を行うBarry Katzさんは、スタンフォードで教鞭を取るだけでなく、IDEOのフェローCalifornia College of the Artsの教授を務めておられ、デザイン史やデザイン理論を専門とされています。
Katzさんはこの1月に六本木ヒルズで開催された第2回トポス会議で講演をされ、その交流会でお話をさせて頂きました。デザインの歴史はひと通り分かっているつもりでしたが、改めて勉強するとても良い機会に巡り会うことができました。

この授業では、産業革命および大量生産の普及に伴って変化したアート、建築、プロダクトの歴史、そしてそれらと社会や文化との関連について、示唆に富んだ話をウィットに富んだ語り口でレクチャーをされていました。

いちばん印象に残ったのは「デザインの歴史とはモノの歴史ではなく、アイデアの歴史である」とおっしゃっていたことでした。また授業のタイトルが単にHistory of Designではなく、History of Philosophy of Designとなっています。
IDEOのKatzさんの紹介ページでも

Barry believes that there is no design problem that does not have its roots in history, and his contributions to IDEO’s project work have been to make that history relevant.

と書かれています。「(歴史や文化や社会や人間に対する)哲学が伴わないアイデアは”デザイン”ではない」とKatzさんは考えておられるのではないでしょうか。
シリコンバレーとコンピュータの歴史を紹介する回でスティーブ・ジョブズだけでなくダグラス・エンゲルバートやアラン・ケイを紹介したこと、最終回の授業の終わりでエットーレ・ソットサスの

Design is a way of discussing life. It is a way of discussing society, politics, eroticism, food, and even design.

という言葉を紹介したことは、その表れだと思います。

“(産業)インダストリアルデザイン”自体がうまれたことが産業や社会と大きな関連を持っているわけですから、産業や社会の変化と共にデザイナやエンジニアにも新しい職能が求められます。モダンデザインの歴史は”Machine Age”における哲学とアイデアの歴史と言えますが、知的なマシンがネットワークされた”New Machine Age”におけるデザインとは何か?という大きな歴史観を持って自分なりの哲学を築くことが必要です。肝に銘じたいです。

Barry M. Katz, Technology and Culture: A Historical Romance (Portable Stanford)

2012-2013 ME101: Visual Thinking

Robert McKimに始りRolf Faste、David Kellyへと受け継がれたME101:Visual Thinkingは毎学期開講されるデザインを専攻する学部生向けの入門クラスです。

聴講した今期のクラスを受け持つのはStanford Design ProgramのOG/OBであるJennifer LopezさんとPurin Phanichphantさんです。JenniferはCapital One LabsそしてPurinはIDEOに勤めるデザイナーです。お2人にお願いをして、ずっと講義に参加させてもらいました。
Many thanks for Jennifer and Purin.

(希望者から選抜された)60名程の履修者に向けた2時間の講義が火曜日と木曜日に行われます。10週間に渡るクラスでは、
・レクチャー+その内容についての宿題
・設計課題+デモ+設計と制作についてのプレゼン
という組み合わせを数セット繰り返します。

授業の中でフォーカスされる6つのトピックは Teamwork, Sketching/Drawing, Prototype Creation, Idea Inspiration & Ideation, Storytellingです。話を聞いて頭で理解するというよりは、宿題と課題を通じて身体に叩き込んでいくような授業です。
・課題0: 紙で作るタワー 1人でやっても良いし周囲と協力しても良い(初回授業時)
・課題1: 組み立てる時間と方法に制約がある紙と鉛筆で作るタワー チーム課題(4-5人)
・課題2: 移動した後にピンポン球を受け渡すことができる2台の車 チーム課題(2-3人)
・課題3: 「時間」をテーマにした何か 個人課題
学生達は毎週のように出る宿題と合計で3回の設計課題をこなしていきます。スタンフォードの中でもハードなクラスだそうですが、学生達は宿題と課題にはとても懸命にそして楽しそうに取り組んでいました。

手と身体を動かしながら考えること、プロトタイプを作っては問題を発見して自分(達)のアイデアを練り上げていくこと、チームで考え作ること。全ての課題を通してそれらを身に付けていきます。発想技法として使うのはブレインストーミングとマインドマップが主で、(俗に言う)デザインシンキング的なユーザへの共感(Empathy)からスタートするデザインプロセスは課題3で行います。この繰返しの中で、テクニックや方法論としてではなくマインドセット(Mind Set)としてDesign Thinkingを身につけることでしょう。

このクラスは1960年代半ばにスタートし、80年代に要求分析そして90年代にビジネス的要素が追加されたという歴史があります。「デザイン思考」という言葉は何か流行語のようにもなった感がありますが、綿々と続くStanford Design Programのお家芸のように思えます。

色々な回の授業で「Practice!Practice!Practice!」「Prototypessssssss」というメッセージが伝えられていたのが印象的でした。Draw-See-Imagineの三つを行き来しながら問題を発見し解決するVisual Thinkingのスピリットが40年に渡ってどのように息づいているかを濃密な10週間の中で感じることができました。

以下に関連する情報として、Rolf RafteによるMind Mapについての文章、そしてRobert MaKim, IDEO, Hasso Plattnerによるデザインシンキングにまつわる著書を紹介します。
Experiences in Visual Thinking
Robert H. McKim

発想する会社! トム・ケリー,ジョナサン・リットマン
Design Thinking: Understand – Improve – Apply (Understanding Innovation) Hasso Plattner, Christoph Meinel, Larry Leifer