2012-2013 ME101: Visual Thinking

Robert McKimに始りRolf Faste、David Kellyへと受け継がれたME101:Visual Thinkingは毎学期開講されるデザインを専攻する学部生向けの入門クラスです。

聴講した今期のクラスを受け持つのはStanford Design ProgramのOG/OBであるJennifer LopezさんとPurin Phanichphantさんです。JenniferはCapital One LabsそしてPurinはIDEOに勤めるデザイナーです。お2人にお願いをして、ずっと講義に参加させてもらいました。
Many thanks for Jennifer and Purin.

(希望者から選抜された)60名程の履修者に向けた2時間の講義が火曜日と木曜日に行われます。10週間に渡るクラスでは、
・レクチャー+その内容についての宿題
・設計課題+デモ+設計と制作についてのプレゼン
という組み合わせを数セット繰り返します。

授業の中でフォーカスされる6つのトピックは Teamwork, Sketching/Drawing, Prototype Creation, Idea Inspiration & Ideation, Storytellingです。話を聞いて頭で理解するというよりは、宿題と課題を通じて身体に叩き込んでいくような授業です。
・課題0: 紙で作るタワー 1人でやっても良いし周囲と協力しても良い(初回授業時)
・課題1: 組み立てる時間と方法に制約がある紙と鉛筆で作るタワー チーム課題(4-5人)
・課題2: 移動した後にピンポン球を受け渡すことができる2台の車 チーム課題(2-3人)
・課題3: 「時間」をテーマにした何か 個人課題
学生達は毎週のように出る宿題と合計で3回の設計課題をこなしていきます。スタンフォードの中でもハードなクラスだそうですが、学生達は宿題と課題にはとても懸命にそして楽しそうに取り組んでいました。

手と身体を動かしながら考えること、プロトタイプを作っては問題を発見して自分(達)のアイデアを練り上げていくこと、チームで考え作ること。全ての課題を通してそれらを身に付けていきます。発想技法として使うのはブレインストーミングとマインドマップが主で、(俗に言う)デザインシンキング的なユーザへの共感(Empathy)からスタートするデザインプロセスは課題3で行います。この繰返しの中で、テクニックや方法論としてではなくマインドセット(Mind Set)としてDesign Thinkingを身につけることでしょう。

このクラスは1960年代半ばにスタートし、80年代に要求分析そして90年代にビジネス的要素が追加されたという歴史があります。「デザイン思考」という言葉は何か流行語のようにもなった感がありますが、綿々と続くStanford Design Programのお家芸のように思えます。

色々な回の授業で「Practice!Practice!Practice!」「Prototypessssssss」というメッセージが伝えられていたのが印象的でした。Draw-See-Imagineの三つを行き来しながら問題を発見し解決するVisual Thinkingのスピリットが40年に渡ってどのように息づいているかを濃密な10週間の中で感じることができました。

以下に関連する情報として、Rolf RafteによるMind Mapについての文章、そしてRobert MaKim, IDEO, Hasso Plattnerによるデザインシンキングにまつわる著書を紹介します。
Experiences in Visual Thinking
Robert H. McKim

発想する会社! トム・ケリー,ジョナサン・リットマン
Design Thinking: Understand – Improve – Apply (Understanding Innovation) Hasso Plattner, Christoph Meinel, Larry Leifer

2012-2013spring

6月も初旬になり卒業式の準備も始まる中、スタンフォード大学でも様々な授業での発表会があちこちで催されています。このセメスターでは自分の研究も進めながら幾つかの授業を聴講しました。

それぞれの講義について別エントリーにて少し紹介したいと思います。

d.schoolとT型人材


いま所属しているdesignXプロジェクトの定例ミーティングでは、所属メンバーだけでなくゲストが来られてディスカッションのお題を持ってくることがあります。今週のミーティングではthe American Association for the Advancement of Science (AAAS)のReiko Yajimaさんが来られ、デザインシンキングと科学的な研究の共通点と相違点についてディスカッションが行われました。

工学者に限らず科学者も専門のサイロ化から逃れることで新しい視点を得られますが、それがデザイン思考がヒントになるのか?ということでした。デザインシンキングでは人々を観察することがプロジェクトのスタートになりますが、科学においても自然現象を観察する眼を養うことが必要なことは共通しているように思いました。

「ワークショップ楽しそう」「カッコ良い場所でわーってブレストしてカッコ良い」みたくd.schoolについて誤解されているかもしれません。このミーティングでdesignXプロジェクトを率いるLarry Leiferが言っていことは「デザインシンキングはI型人材がT型人材に学生が進化するミッシングリングを埋めるものなんだ」ということでした(専門知識しかない人材がI型人材で専門知識に加えて広い知識を持つT型人材と良く言います)。

その2日後に人工知能とHCIの研究で著名なTerry Winogradのトークがありました。Winogradはd.schoolの中の人でもあり、Computer Scienceの授業の中で行われたトークのスライドにもまさにT型人材の話が出てきました。
誰も解決したことのない問題に対してデザインシンキングを通じてアイデアを出し、専門家として深堀りされた知識によるロジカルシンキングで検証をする。正解のない問題にチームでアタックすることで自分の知識を横に伸ばす機会なのですね。

創造性と遊び

久しぶりにTim BrownのTEDにおける講演「Tales of creativity and play(創造性と遊び)」を見ました。

冒頭で紹介されているBob(Robert) McKim先生はStanford大学のd.schoolの源流となっている機械工学科のプロダクトデザインプログラムをスタートさせた先生です。
関連情報はアイデアキャンプのブログ「Robert McKimによるVisual Thinking」「Robert McKimのレリーフ@Stanford」でも)

創造性を発揮しながら一緒に働く人は友達もしくは友達になれそうな人とTim Brownが言っていますが、それは感覚的にも良く分かる気がします。d.schoolでもスタンフォードのデザインプログラムの授業においても、チームワークをとても重要なスキルとして捉えています。仕事をする仲間とサッカーやフットサルをしてみると、仕事ぶりとプレースタイルがほとんど同じでなので、一緒にプレーしたことがある人とは仕事がしやすいものです。

設計やデザインを教えることはなかなか難しいものですが、聴講しているME101:Visual Thinkingでは「Design is Team Sports!!」だと先生方が言っています。課題を通じた経験と訓練が重視されているのは、設計とデザインはスポーツと同じで身体化された知だからだと思います。

その後にこちらの記事「サッカーを遊ぶ南米、サッカーを遊ばない日本(前編)」をたまたま読んだのですが、少し関連があるように思いました。設計やデザインはあんまり教え過ぎないのが良いかもしれません…。

ワークショップご参加ありがとうございました!

1月の19(土)にワークショップ「空間をプログラミングしよう!」第3回,盛況のうちに開催することができました.

今回も数時間のプログラミングの作業の中でさまざまなシミュレーションを作っていただきました。シミュレーションしてみたら思っていたよりもつまらなかった、でも別のことにオモシロみを感じてまた新しい方向にプロトタイピングを進めた。そんな予期せぬ発見を色々と共有できました。
ご参加いただいたみなさん、どうもありがとうございました。

今回のワークショップ向けにドキュメントの整備を進めていたのですが、ちょっと間に合いませんでした…。ドキュメントのためにCityCompilerのロゴもデザインしてもらいました。Coming Soon!ですので、完成したらまたお知らせします。

シンキングプロセスデザイン最終発表会

秋学期には発想の技法とプロセスを対象にした授業「シンキングプロセスデザイン」を行っています。
毎年恒例となっている最終発表会を行いました。今年はアイデアを出すお題をすこし抽象度の高いものにしました。その分、各自のアイデアの幅が広くなって、ポスター発表の熱の帯び方がこれまでとは少し違ったものになっていたと思います。

履修者のみなさん、どうもお疲れさまでした。

ワークショップご参加ありがとうございました!

11月の24(土)と25(日)にワークショップ「空間をプログラミングしよう!」,盛況のうちに開催することができました.

数時間のプログラミングの作業の中で,我々の想像を超えたさまざまなシミュレーションを作っていただきました.この画像は参加者の皆さんのコードを実行した様子を幾つか抜粋したものです.

Processingの画面が様々な建築物にプロジェクションされたり,色々な大きさのディスプレイに表示されたり.またプロジェクタやカメラが空間の中を移動したりすることで,空間と情報が渾然一体となった環境をつくり出しています.

CityCompilerを使って仮想空間でシミュレーションを色々とやってみると,「予期せぬ発見」をすることがあります.
仮想プロジェクタ・ディスプレイや仮想カメラが仮想空間の中で動作するのを見て,あたまの中だけで考えていたのとは違ったアイデアが広がっていくことを楽しんでいただけたように思います.CityCompilerを使って皆さんの想像力・創造力が発揮された瞬間を見ることができて,楽しい2日間を過ごさせていただきました.

ご参加いただいた皆さん,どうもありがとうございました.

このワークショップでのフィードバックを受けて,来年の1月19(土)にまたワークショップを開催予定です.またこのサイトでもお知らせをさせて頂きます.

NHK第一ラジオに出演

11月6日(火)にNHK第一ラジオ「私も一言! 夕方ニュース」に出演させていただきました.

この番組の「ここに注目」というコーナーで解説委員の谷田部雅嗣さんとご一緒させていただき,いまやっている研究の話となぜそうした研究をするようになったのかという経緯などを「情報・生活を豊かで楽しくするための作り方」というタイトルで楽しくお話させていただきました.あっという間に30分が経ちました.
番組アーカイブス2012年11月

どうもありがとうございました.

分人の管理・追加そして仮想化

さまざまな情報通信技術が発達すると共に,情報のやりとりは非同期化・ネットワーク化・分散化され,それと共に「人間も非同期化・ネットワーク化・分散化」したと言えるでしょう.分人という概念は,そうした現状をよりうまく説明できるモデルになり得ます.さらに
「『分人』をうまく管理するにはどうすれば良いか?」
「『分人』を人が新しく作りだす時はどうするのか/どうしたら良いのか?」
平野さんと「記憶の告白」という作品を作ったりDAWNのインスタレーション化したりする中で,そうした関心を持つようにもなりました.

私とは何か,という問いの答えのイメージが,りんごやみかんという「個」という数え方が適したモノではなく,ぶどうの「房:枝+n粒」のように,違う数え方やイメージをうまく考えつくことができれば,『分人』をより積極的にマネージメントできるようになるでしょう.まだぼんやりとした関心ですが,そんな関心から色々なお面を買ったりしています.

情報通信技術の発達が人間のあり方・見方に影響を及すとすれば,もう一つの方向性は「仮想化」です.アニメの主人公や初音ミクのコスプレ,自宅警備員のみなさん等も,仮想化の違ったあり方でしょう.また別の仮想化のあり方があるだろう,お面をかぶりながら,そんなことを少し考えています.

私とは何か、新たな人間とは何か

いつもお世話になっている平野啓一郎さんから送っていただいた新著
 私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書) 
を読ませていただきました(遅くてスミマセン…).

メディアアート作品「記憶の告白 – reflexive reading」の共同制作の過程でやりとりした会話やメールが,この本の内容にも少し貢献できているように思えて,少し嬉しいです.

地球上の生物の中で,環境を作り替えまた人工的な環境を作り出す生物は人間だけですが,人間は自分達が作り出した社会的環境+物理的環境との相互作用を繰り返す中で,また新しい人間へと変化していくものです.

そうした中で人間はさまざまな悩みを抱えて生きてきました.そして常に「人間とは何か?」という問いを立て,様々な人々が様々なアプローチで答えを出そうと努力をしてきました.

平野さんの新著にあわせてこの三冊を読むとそうした流れを俯瞰できるに違いありません.

他人の顔 (新潮文庫)

じぶん・この不思議な存在 (講談社現代新書「ジュネス」)

ロボットとは何か――人の心を映す鏡 (講談社現代新書)

都市,マスメディア,インターネット,そしてロボット.
「人間が作り出した新しい環境の中でうまれる『新たな人間とは何か』」という問いに答えようとする,小説家,哲学者,研究者/工学者たちの共通点と相違点.けっこう面白いと思います.

何か対談とかシンポジウムの企画出してといわれたら,平野さん+鷲田さん+石黒さん,と今なら即答することでしょう.そして特別ゲストにはぜひデーモン閣下を(笑