2012-2013 ME310: Design Innovation

スタンフォード機械工学科の名物授業のひとつであるME310は、今お世話になっているCenter for Design ResearchのLarry Leifer先生が中心となって行っているProject Basedの授業です。スポンサーの企業からのお題に対してスタンフォードの大学院生と他国の大学院生とでチームを組んで9ヶ月間取り組む「Real Companies. Real Projects. Real Design.」が特徴となっています。

9ヶ月間に渡るプロジェクトのために(スタンフォードでは珍しいと思いますが)部屋がひとつ提供されていて、たまに覗いてみると必ず学生の誰かがモノづくりを行っていました。企業の担当者へのプレゼンやミーティングも定期的に行われ、企業×(Stanford+大学(アメリカ以外))という距離と文化を超えたコラボレーションが進められていました。

他の授業の発表会を同じ日に行う「Design EXPE」のイベントの目玉としてME310の発表会が行われました(ME310の発表会にたくさんお客さんが来るので他の授業の発表も一緒に見てもらうようになったようです)。晴れ舞台であるDesign EXPEには多くのお客さんが訪れ、プレゼンとデモを楽しんでいました。

まだプロトタイプのものだけでなく、すぐにサービスインできそうなものや製品にできそうなものもありました。

  • UNICEF*(Stanford+Aalto University):医療体制が整っていないアフリカの地域。多くの母親は病気になった子供を抱いて遠路はるばるやってこなくてはならない。医師が地域コミュニティに出向いて治療をするための一式をバックパックとしてデザイン。
  • EDEKA*(Stanford+Hasso Plattner Institute):独身の人に向けのネットスーパーサービス。買いたい食材を選ぶのではなく、iPadから作りたいメニューを選ぶ。必要な食材と調味料が1人分パッケージされ、バス停に設置してある冷蔵庫に置かれる。PIN番号が書かれたメールがユーザに届き、最寄りのバス停でピックアップできる。
  • Clariant*(Stanford+University of St. Gallen):筐体を作ると同時に電子回路も一緒にプリントアウトする3Dプリンタ(抵抗やコンデンサなどは途中で挿入)。壊れにくく丈夫な製品を作りやすくするだけでなく、必要な部品や素材や人材のマッチングサービスによるスタートアップ企業支援のサービスの一環として提案。Webも制作

この他にもStanfordの学生とはチームを組まず他国の大学院どうしでチームを組んで企業からの課題に取り組んだ成果もSUGARとして発表されました。
参加していた京都工芸繊維大学の学生さん達や櫛先生にもお話をうかがうことができました。海外の大学および企業とコミュニケーションを取ってデザインを進めることはとても大変+とても良い経験になったそうです。私が講師をしていたせんだいスクールオブデザインでも海外の大学と一緒に設計課題を進めるプロジェクトがありますが、そうした取り組みはプロダクトデザインやインタラクションデザインの分野ではあまり聞いたことがありません。さらに企業と連携としているのですから、教員側の苦労も推して知るべしです。素晴らしい人材育成プログラムだと思います。

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2012-2013 ME120: History and Philosophy of Design

ME120の授業を行うBarry Katzさんは、スタンフォードで教鞭を取るだけでなく、IDEOのフェローCalifornia College of the Artsの教授を務めておられ、デザイン史やデザイン理論を専門とされています。
Katzさんはこの1月に六本木ヒルズで開催された第2回トポス会議で講演をされ、その交流会でお話をさせて頂きました。デザインの歴史はひと通り分かっているつもりでしたが、改めて勉強するとても良い機会に巡り会うことができました。

この授業では、産業革命および大量生産の普及に伴って変化したアート、建築、プロダクトの歴史、そしてそれらと社会や文化との関連について、示唆に富んだ話をウィットに富んだ語り口でレクチャーをされていました。

いちばん印象に残ったのは「デザインの歴史とはモノの歴史ではなく、アイデアの歴史である」とおっしゃっていたことでした。また授業のタイトルが単にHistory of Designではなく、History of Philosophy of Designとなっています。
IDEOのKatzさんの紹介ページでも

Barry believes that there is no design problem that does not have its roots in history, and his contributions to IDEO’s project work have been to make that history relevant.

と書かれています。「(歴史や文化や社会や人間に対する)哲学が伴わないアイデアは”デザイン”ではない」とKatzさんは考えておられるのではないでしょうか。
シリコンバレーとコンピュータの歴史を紹介する回でスティーブ・ジョブズだけでなくダグラス・エンゲルバートやアラン・ケイを紹介したこと、最終回の授業の終わりでエットーレ・ソットサスの

Design is a way of discussing life. It is a way of discussing society, politics, eroticism, food, and even design.

という言葉を紹介したことは、その表れだと思います。

“(産業)インダストリアルデザイン”自体がうまれたことが産業や社会と大きな関連を持っているわけですから、産業や社会の変化と共にデザイナやエンジニアにも新しい職能が求められます。モダンデザインの歴史は”Machine Age”における哲学とアイデアの歴史と言えますが、知的なマシンがネットワークされた”New Machine Age”におけるデザインとは何か?という大きな歴史観を持って自分なりの哲学を築くことが必要です。肝に銘じたいです。

Barry M. Katz, Technology and Culture: A Historical Romance (Portable Stanford)

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2012-2013 ME101: Visual Thinking

Robert McKimに始りRolf Faste、David Kellyへと受け継がれたME101:Visual Thinkingは毎学期開講されるデザインを専攻する学部生向けの入門クラスです。

聴講した今期のクラスを受け持つのはStanford Design ProgramのOG/OBであるJennifer LopezさんとPurin Phanichphantさんです。JenniferはCapital One LabsそしてPurinはIDEOに勤めるデザイナーです。お2人にお願いをして、ずっと講義に参加させてもらいました。
Many thanks for Jennifer and Purin.

(希望者から選抜された)60名程の履修者に向けた2時間の講義が火曜日と木曜日に行われます。10週間に渡るクラスでは、
・レクチャー+その内容についての宿題
・設計課題+デモ+設計と制作についてのプレゼン
という組み合わせを数セット繰り返します。

授業の中でフォーカスされる6つのトピックは Teamwork, Sketching/Drawing, Prototype Creation, Idea Inspiration & Ideation, Storytellingです。話を聞いて頭で理解するというよりは、宿題と課題を通じて身体に叩き込んでいくような授業です。
・課題0: 紙で作るタワー 1人でやっても良いし周囲と協力しても良い(初回授業時)
・課題1: 組み立てる時間と方法に制約がある紙と鉛筆で作るタワー チーム課題(4-5人)
・課題2: 移動した後にピンポン球を受け渡すことができる2台の車 チーム課題(2-3人)
・課題3: 「時間」をテーマにした何か 個人課題
学生達は毎週のように出る宿題と合計で3回の設計課題をこなしていきます。スタンフォードの中でもハードなクラスだそうですが、学生達は宿題と課題にはとても懸命にそして楽しそうに取り組んでいました。

手と身体を動かしながら考えること、プロトタイプを作っては問題を発見して自分(達)のアイデアを練り上げていくこと、チームで考え作ること。全ての課題を通してそれらを身に付けていきます。発想技法として使うのはブレインストーミングとマインドマップが主で、(俗に言う)デザインシンキング的なユーザへの共感(Empathy)からスタートするデザインプロセスは課題3で行います。この繰返しの中で、テクニックや方法論としてではなくマインドセット(Mind Set)としてDesign Thinkingを身につけることでしょう。

このクラスは1960年代半ばにスタートし、80年代に要求分析そして90年代にビジネス的要素が追加されたという歴史があります。「デザイン思考」という言葉は何か流行語のようにもなった感がありますが、綿々と続くStanford Design Programのお家芸のように思えます。

色々な回の授業で「Practice!Practice!Practice!」「Prototypessssssss」というメッセージが伝えられていたのが印象的でした。Draw-See-Imagineの三つを行き来しながら問題を発見し解決するVisual Thinkingのスピリットが40年に渡ってどのように息づいているかを濃密な10週間の中で感じることができました。

以下に関連する情報として、Rolf RafteによるMind Mapについての文章、そしてRobert MaKim, IDEO, Hasso Plattnerによるデザインシンキングにまつわる著書を紹介します。
Experiences in Visual Thinking
Robert H. McKim

発想する会社! トム・ケリー,ジョナサン・リットマン
Design Thinking: Understand – Improve – Apply (Understanding Innovation) Hasso Plattner, Christoph Meinel, Larry Leifer

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2012-2013spring

6月も初旬になり卒業式の準備も始まる中、スタンフォード大学でも様々な授業での発表会があちこちで催されています。このセメスターでは自分の研究も進めながら幾つかの授業を聴講しました。

それぞれの講義について別エントリーにて少し紹介したいと思います。

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d.schoolとT型人材


いま所属しているdesignXプロジェクトの定例ミーティングでは、所属メンバーだけでなくゲストが来られてディスカッションのお題を持ってくることがあります。今週のミーティングではthe American Association for the Advancement of Science (AAAS)のReiko Yajimaさんが来られ、デザインシンキングと科学的な研究の共通点と相違点についてディスカッションが行われました。

工学者に限らず科学者も専門のサイロ化から逃れることで新しい視点を得られますが、それがデザイン思考がヒントになるのか?ということでした。デザインシンキングでは人々を観察することがプロジェクトのスタートになりますが、科学においても自然現象を観察する眼を養うことが必要なことは共通しているように思いました。

「ワークショップ楽しそう」「カッコ良い場所でわーってブレストしてカッコ良い」みたくd.schoolについて誤解されているかもしれません。このミーティングでdesignXプロジェクトを率いるLarry Leiferが言っていことは「デザインシンキングはI型人材がT型人材に学生が進化するミッシングリングを埋めるものなんだ」ということでした(専門知識しかない人材がI型人材で専門知識に加えて広い知識を持つT型人材と良く言います)。

その2日後に人工知能とHCIの研究で著名なTerry Winogradのトークがありました。Winogradはd.schoolの中の人でもあり、Computer Scienceの授業の中で行われたトークのスライドにもまさにT型人材の話が出てきました。
誰も解決したことのない問題に対してデザインシンキングを通じてアイデアを出し、専門家として深堀りされた知識によるロジカルシンキングで検証をする。正解のない問題にチームでアタックすることで自分の知識を横に伸ばす機会なのですね。

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創造性と遊び

久しぶりにTim BrownのTEDにおける講演「Tales of creativity and play(創造性と遊び)」を見ました。

冒頭で紹介されているBob(Robert) McKim先生はStanford大学のd.schoolの源流となっている機械工学科のプロダクトデザインプログラムをスタートさせた先生です。
関連情報はアイデアキャンプのブログ「Robert McKimによるVisual Thinking」「Robert McKimのレリーフ@Stanford」でも)

創造性を発揮しながら一緒に働く人は友達もしくは友達になれそうな人とTim Brownが言っていますが、それは感覚的にも良く分かる気がします。d.schoolでもスタンフォードのデザインプログラムの授業においても、チームワークをとても重要なスキルとして捉えています。仕事をする仲間とサッカーやフットサルをしてみると、仕事ぶりとプレースタイルがほとんど同じでなので、一緒にプレーしたことがある人とは仕事がしやすいものです。

設計やデザインを教えることはなかなか難しいものですが、聴講しているME101:Visual Thinkingでは「Design is Team Sports!!」だと先生方が言っています。課題を通じた経験と訓練が重視されているのは、設計とデザインはスポーツと同じで身体化された知だからだと思います。

その後にこちらの記事「サッカーを遊ぶ南米、サッカーを遊ばない日本(前編)」をたまたま読んだのですが、少し関連があるように思いました。設計やデザインはあんまり教え過ぎないのが良いかもしれません…。

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DESIGN FRONTIERS WORKSHOP SERIES

UC BerkleyのCal Design Labでサマープログラムとして「DESIGN FRONTIERS WORKSHOP SERIES」が開催されます。College of Environmental Design(日本で言うと建築学科+土木工学科ですね)が主催のワークショップだけあって、テクノロジーを取り込んだ新たな空間のデザインを実践する場となっています

4つのワークショップが週替わりで開かれます。
・EXPRESSIVE MOVEMENT IN ARCHITECTURE AND DESIGN, JULY 15-19, 2013
・ROBOTIC PROTOTYPES IN ARCHITECTURE, JULY 22-26, 2013
・FRONTIERS IN DESKTOP FABRICATION, JULY 29 – AUGUST 2, 2013
・GESTURAL AND NATURAL USER INTERFACES, AUGUST 5-9, 2013
どれも面白そうですね。

僕もどれか1つ参加しようと思っています。

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Visiting Scholar in Stanford University

この3月からスタンフォード大学のCenter for Design ResearchでVisiting Sholarとして1年間お世話になることになりました。

こちらでの情報もおいおいアップしていこうと思っています。

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CityCompilerをgithubにて公開中

最新版のCityCompilerはgithubで公開しています。
https://github.com/yasutonakanishi/CC4p52
Processingが2.0b8が2月24日に公開されていたので、最新のコミットではProcessingのライブラリを更新しました。

また日本語で書いたドキュメントも同梱しました。ワークショップを一緒に進めてくれた田所淳さん、橋本直さん、荒川慎一さんと一緒に作りました。
CityCompiler ドキュメント

ダウンロードおよびインストールの仕方が、サンプルの動かし方等が書かれていますので、CityCompilerを使ったプロトタイピングをお楽しみください!

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ワークショップご参加ありがとうございました!

1月の19(土)にワークショップ「空間をプログラミングしよう!」第3回,盛況のうちに開催することができました.

今回も数時間のプログラミングの作業の中でさまざまなシミュレーションを作っていただきました。シミュレーションしてみたら思っていたよりもつまらなかった、でも別のことにオモシロみを感じてまた新しい方向にプロトタイピングを進めた。そんな予期せぬ発見を色々と共有できました。
ご参加いただいたみなさん、どうもありがとうございました。

今回のワークショップ向けにドキュメントの整備を進めていたのですが、ちょっと間に合いませんでした…。ドキュメントのためにCityCompilerのロゴもデザインしてもらいました。Coming Soon!ですので、完成したらまたお知らせします。

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